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2026.01.24更新

素材の境界線に宿るもの ――「見切り」という美学

建築やインテリアを眺める際、私たちはついつい広い壁面や大きな家具に目を奪われがちです。しかし、その空間が「上質」かどうかを決定づけているのは、実は視線の端に映るか映らないかのような、ごく小さなディテールにあります。

その代表格が、異なる素材同士がぶつかり合う境界線――「見切り(みきり)」の処理です。

1mmの真鍮が引く、空間の「規律」

例えば、柔らかな質感の壁紙と、力強い木目のパネルが接する部分。そのまま突き付けてしまえば、どうしても断面のわずかな歪みや隙間が「ノイズ」として現れてしまいます。

そこに、わずか1mmほどの真鍮の細いラインを一本通す。 たったそれだけのことで、空間にはパキッとした緊張感が生まれ、それぞれの素材が互いの存在を認め合うような、心地よい「規律」が生まれます。真鍮は時とともに色を深め、木材と共にアンティークのような風格を纏っていく。その変化すらも計算されたデザインには、設計者の深い意図が感じられます。

「段差」を消し、「意図」を残す

床の切り替えも、見どころの一つです。 重厚なタイルの冷たさと、フローリングの温かさ。本来、厚みも性質も全く異なるこの二つの素材を、寸分の狂いなくフラットに繋ぐのは容易ではありません。

見切り材をただの「つなぎ」として使うのではなく、素材と素材の対話を仲介する「句読点」として捉えること。段差をなくし、視覚的なラインだけを美しく通す。この「面」を揃えるという職人の執念こそが、空間に圧倒的なノイズレスな美しさをもたらすのです。

影をデザインするということ

また、あえて素材をぴったりとくっつけず、わずかな隙間(目地)を作る手法もあります。そこには「影」という名の見切りが生まれます。

カウンターの天板と幕板の間に、細い暗がりのラインを走らせる。 影を置くことで、重たい素材に「浮遊感」が生まれ、空間に奥行きが宿ります。光を当てる場所だけでなく、あえて影をどこに落とすかを設計する。これこそが見切りの真骨頂と言えるでしょう。

神は細部に、美は境界に宿る

建築の世界には「神は細部に宿る」という言葉がありますが、私は「美は境界に宿る」とも言えるのではないかと感じています。

異なるもの同士が接する場所に、どれだけの手間と美意識を注げるか。 住まいを訪れた際、あるいは自分の部屋で寛ぐとき、ふと視線を足元や壁の隅に落としてみてください。そこに美しい「見切り」を見つけたとき、その空間はきっと、あなたを静かに満たしてくれるはずです。

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