
2026.02.18更新
凹むペットボトルから考える「気密」の正体、住宅換気のリスクと選択
冬の朝は、凍った車のガラスに常温の水をかけている。
暖かい室内(22℃)に置かれた水ペットボトルを冷え切った屋外へ持ち出す。ガラスに水をかける。空になったペットボトルは数分もしないうちに、容器は外側から押し潰されたように「ベコッ」と音を立てて凹み始める。

理由は単純だ。中の空気が冷やされて収縮し、体積が小さくなろうとするからである。このとき、ボトル内部の気圧が外気圧より低い「負圧」の状態になる。キャップが固く閉まり、空気の逃げ場がない「高気密」な状態だからこそ、容器そのものが変形してその圧力差に応答するのだ。
ここで、住宅の性能に置き換えて考えてみたい。もし、このペットボトルに針で突いたような小さな穴、つまり「隙間」が開いていたらどうなるだろうか。
容器は決して凹まない。中の空気が冷えて収縮した分だけ、その穴から外の冷たい空気が「ヒューヒュー」と吸い込まれ、常に内と外の圧力が均衡を保とうとするからだ。これこそが、気密性能の低い住宅で起きている現象そのものである。家の中を暖めれば暖めるほど、あるいは夜間に室温が下がって空気が収縮しようとするほど、家のあちこちにある「隙間」から冷たい外気が容赦なく引き込まれる。気密が低い家は、ペットボトルが凹む代わりに、住人が絶え間ない冷気の侵入を肌で感じ続けることになる。
第2種換気という「正圧」の選択と、潜む危険?
この「負圧による冷気の吸い込み」を防ぐ手段として、ファンで強制的に空気を送り込む「第2種換気」がある。室内を常にパンパンに膨らませる「正圧」の状態に保つことで、隙間から冷気が入る隙を与えないという考え方だ。
しかし、ここには大きな落とし穴がある。もし住宅の気密性能が不十分であれば、どれだけ空気を送り込んでも隙間から漏れ出してしまい、肝心の正圧を維持することができない。冬の強い冷気と風圧に抗うには、極めて高いレベルの気密が前提となるのだ。
さらに、仮に正圧を保てたとしても、別の致命的なリスクが浮上する。室内を正圧にするということは、暖かい湿った空気を建物の隙間から「外へ押し出す」力として働く。この湿気が壁の内部へと侵入し、外気に冷やされて「壁内結露」を引き起こせば、知らぬ間に構造材を腐らせることになる。
設備選びに求められる「慎重さ」と「検証」
実社会において、住宅用の第2種換気製品は極めて少ない。最近では、この第2種に近い挙動をする第1種換気システムも見受けられるようになった。
しかし、弊社ではこうした最新設備に対しても慎重な姿勢をとっている。住宅という一生ものの資産において、設備製品の選択は極めてデリケートだ。住宅業界には、長年の現場検証を待たずして、声の大きい誰かが「いい」と言えば、一気になびいてしまう風潮が少なからず存在する。
数年、十数年というスパンで壁の中がどう変化するのか。その確から治験が積み上がるまでは、安易な流行や耳あたりの良い理論に飛びつくべきではないと考えている。とはいえ換気設備は耐用15年ほどなので、その先は換気が効いているのかどうかはわからない。
空気の力学を誠実に読み解く
ペットボトルが凹むのは、中がしっかり密閉されている証拠である。住宅も同様に、まずは高い気密性能を確保した上で、気圧のバランスをどう取るべきか。それはカタログのスペックだけでなく、物理現象への深い理解と、長年の経験に基づいた「誠実な設計判断」が求められる領域である。
冬の路上でひしゃげたペットボトルを眺める時、私たちはそこにある目に見えない空気の力を、住まいの耐久性と快適さにどう結びつけるべきか、改めて自問自答している。